2024年に衆議院議員選挙が行われました(公示日2024年10月15日/投票・開票日10月27日)
自民党が191議席、公明党が24議席の215議席で、過半数の233議席を下回りました。与党が過半数を割り込むのは民主党政権が誕生した15年前の2009年以来となります。
一方、立憲民主党は選挙前の98議席から大幅に増やし、148議席でしたが、第一党となるまでに至りませんでした。
なぜ、不祥事を繰り返す自民党が200席近い議席数を保ち続けることができるのか。一個人としては疑問でしかありません。
私が分析したところ、日本で自由民主党が長年政権を維持し続ける背景には、いくつかの複合的な理由があるようです。ここでは私の分析結果を交えながら6つの理由を紹介します。
歴史的な背景と既得権益団体との丸儲けシステム
1.歴史的な背景と「戦後政治の安定」

自由民主党は1955年(昭和30年11月15日)の結党以来、一貫して日本の政治を主導してきたという歴史的な実績があります。経済成長期にリーダーシップを発揮し、インフラ整備や産業育成など大きな貢献をしてきたため、当時を知る国民の間では「自由民主党 =安定と発展」というイメージが定着しています。そのため、多少の問題があったとしても「安定と発展」を期待して自民党へ投票する国民が後を絶たず、長期政権の一因となっていると考えられます。
2.地域社会とのかかわり(後援会や利益団体)
自由民主党は長年の政治活動によって地方と強いネットワークを持っています。農業団体や中小企業、労働組合や地方自治体などの後援会や利益団体を通じた緻密な援助があることは強みと言えるでしょう。


多くの議員が「地盤」を持ち、後援会を通じた地元有権者とのつながりが深いため、公共事業や補助金など、地方への利益誘導を行うことで、地方における影響力を強めることが可能です。このような既得権益をお互いに共有しあう戦略を様々な業界団体と取り持つことで選挙にも強い影響力を発揮しています。
このような地方との密接な関係が、安定して長期政権を維持し続けることができる一因になっていると考えられます。
3.政策の継続性と安定感

日本の権利者は比較的安定した政策を推進する傾向にあります。「リスク回避」の政策が支持されやすく、 これに合わせるように景気対策やインフラ整備、防衛政策など、国家基盤を強化する政策に注力してきたため、極端な変化を好まない層には信頼されています。
さらに、外交政策においても米国との同盟を守り続けていることなど、他国との連携を一貫して示しており、外交政策への見通しが高いことから、「安定感」を打ち出すことで国民の支持を得ているとも考えられます。
政策を継続していることや、それによって日本の生活が安定していることが長期政権の一因となっていると考えられます。
4.野党の分裂と弱体化

一方で、自由民主党結成以来、対抗馬になり得る野党が台頭していないことも要因の一つであると考えられます。
野党のなかでも「日本社会党」や「民主党」など、時代ごとに自民党の議席数を上回る政党は存在していたものの、結束力が弱く、党の分裂や再編が頻繁に起こるため、選挙で長く強力な対抗馬になりにくい状況が続いています。
自然災害が多い日本では、国家運営に安定感が求められる場面が多く、自民党がその役割を担ってきたことが評価されています。一方で、 特に民主党政権の時代には、2011年(平成23年3月11日)に同時発生した東日本大震災と原発事故においてリーダーシップを発揮出来なかったという実績から、「野党には任せられない」という意識が根強く、結果として自民党へ支持が回ることに繋がっていると考えられます。
安定した政権運営に疑問が残り、統一的なビジョンや政策の実現力が野党には乏しいこと、野党政党が短命で余裕がなく、政権交代が難しい状況にあることが、自民党の長期政権維持を後押ししている一因になっていると考えられます。
5.メディアの影響と国民の政治への参加意識


日本のメディアは、報道の在り方が慎重で、現状維持的な報道が多い傾向にあります。加えて、選挙の投票率は低い傾向にあるため、高齢者層が若年層に比べて自主支持率が高いことからも、変革を望む声が大きく展開されにくい面があり、これが自民党政権が長く続いている一因になっていると考えられます。
若年層の多くが政治に対して無関心であることも影響していると言えるでしょう。
自民党はメディアとの関係も密接です。様々な業界の中にはメディアも含まれているからです。選挙期間中、自民党に不利な情報が大きく報道されない、あるいは対抗馬である候補者を報道しないこと等が指摘されています。このように有権者の判断材料となる情報が十分に得られないことがあり、世論への影響が抑えられている可能性があります。
6.選挙制度の影響
日本の小選挙区比例代表並立制が自民党に有利に働いていることも一因と言えるでしょう。
1.地方において有利な「勝者総取り」システム
小選挙区制では、各選挙区で一番多く票を得た候補者が議席を獲得する「勝者総取り(Winner-Takes-All)」システムが採用されています。
〇僅差でも勝てば議席を獲得できる
小選挙区制では、選挙区ごとに1人しか当選できないため、僅差でも得票数が最も多ければ議席を獲得できます。 自民党の場合、接戦でもわずかな票差で勝つケースが多く、これにより議席を確保しやすくなっています。
〇反対票を分散させやすい
一方で、野党勢力は選挙区ごとに候補者が乱立しやすく、票が分散されることが多いです。この現象は「野党票の分裂」と呼ばれるもので、自民党に小選挙区で勝利するためには、候補者を1人に絞るなどの戦略が必要となります。
2. 比率代表制との組み合わせ戦略
小選挙区で勝利しにくい場合でも、比例代表制で補填できる点も自民党には有利です。
〇比例代表での議席確保
比例代表制では、各政党の全国での得票率に応じて議席数が決まります。小選挙区で落選した候補者も比例名簿の順番によって議席を獲得するチャンスが残ります。
自民党の場合、比例代表でも一定の支持を確保しているため、小選挙区と比例代表を合わせた全体で多くの議席を維持しやすいのです。
だから自民党が負けない-変えられるのはあなたの1票-
筆者としては、統治政権への「慣れ」であったり「依存」も大きな要因になっていると感じています。過去の政権交代時の混乱を経験していることも、「現状維持」の方向に国民を傾かせているという印象です。
様々な要素が組み合わさり、不祥事があっても自民党は安定した政権運営を維持し続けている。何をしても無駄ともとれる盤石さが自由民主党の最大の強みであり、逆に言えばここを崩すことが第一党奪還に向けた近道なんだろうと思います。
自民党政権が長く続く限り、国民負担率は益々上昇を続けることになるでしょう。働き盛りは税金で貧しくなり、老後は年金を削られ、移民に慣れ親しんだ住処を分け与えつつ生涯を終えることになります。
今の日本に必要なことは「自分たちのための政党を育てること」です。今の噓で固められた安定感から脱却して、日本国民のための政権運営を担うことができる第一党を私たちの力で作り上げていくことが求められているのではないでしょうか。

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参考文献/出典リスト
■「地域社会とのかかわり(後援会・利益団体)」関連資料
- Liberal Democratic Party(LDP)におけるクライアントリズム(利害団体・支援団体との関係)を分析した論文: “Old party, new tricks: candidates, parties, and LDP dominance in Japan” — 掲載:Japanese Journal of Political Science. Cambridge University Press & Assessment
- クライアントリズム+地方依存構造について: “PIPELINES OF PORK — Japanese Politics and a Model of Local Vote-Buying” (Scheiner, 2005) — 地方公共事業・補助金を絡めた利権構造を整理。 scheiner.faculty.ucdavis.edu
- LDP支配の構造的背景として「利益団体/既得権益」も含めて整理した解説: “The Liberal Democratic Party in Japan: Explaining the Party’s Ability to Dominate Japanese Politics.” Inquiries Journal. inquiriesjournal.com
■「選挙制度の影響(小選挙区・比例代表・勝者総取り)」関連資料
- 日本の選挙制度(中選挙区制→小選挙区比例代表並立制)変遷と制度分析: “Japan – Electoral Reform” (ACE Project) — 選挙制度がLDP優位に働いた制度的構造を説明。 aceproject.org+1
- 小選挙区制・比例代表制と有利不利の関係について分析した論文: “Partisan Bias in Japan’s Single Member Districts” — 小選挙区における偏りを統計的に検討。 Cambridge University Press & Assessment
- 選挙制度・制度変更後もLDP優位が続いた理由を制度と実践の両面から分析: “The Electoral System and Japan’s Partial Transformation” (Scheiner) — 制度変化後の状況整理。 scheiner.faculty.ucdavis.edu+1
■「メディアの影響と国民の政治参加意識」関連資料
- メディア・民主主義・支配政党優位の関係を論じた記事: “LDP dominance still cripples Japanese democracy” — メディア・参加意識・制度的背景の関係を概説。 East Asia Forum
- マスメディアとリーダー像(=“カリスマ政治家”)の関係を分析した論文: “Superstars in politics: the role of the media in the rise and success of Junichiro Koizumi” — ブログ記事で想定されている「メディア影響」の具体例となりうる。 arXiv
- 選挙制度・地方制度・情報格差などを絡めた分析: “Explaining one-party dominance in Japanese politics” — 野党弱体化・メディア環境・政治参加の観点あり。 East Asia Forum
■「歴史的背景・戦後政治の安定」関連資料
- LDPの長期支配構造を俯瞰するレビュー: “Liberal Democratic Party at 50: Sources of Dominance and Changes …” — 選挙・議会・行政にわたるLDPの支配構造整理。 OUP Academic
- 日本の選挙制度、国会制度の説明を包括的に載せている: “The Government of Modern Japan: Elections” (Asia for Educators) — 歴史的背景を理解するのに有用。 afe.easia.columbia.edu
- LDP優位・政治文化・政治経済による説明を実証的に検討した論文: “Why has the LDP Stayed in Power so Long in Post-War Japan?” — 政治文化・経済構造・制度的支援の3軸を分析。 エスカラシップ
■「野党の分裂・弱体化」関連資料
- 野党が有力な対抗軸になりにくい構造を整理: “The Continuing Predicament of Japan’s Opposition” (Sasakawa USA) — 野党弱体化の実態を検証。 Sasakawa USA
- 野党分裂・野党機能不全と一党優位の関係を整理: “Explaining one-party dominance in Japanese politics” — 野党分断・組織弱体化を制度・文化・戦略の観点から分析。 East Asia Forum
⧉ 出典リスト(追加収録用)
- McKean, L., & Scheiner, E. “Japan’s new electoral system: la plus ça change…” Electoral Studies, 2000. scheiner.faculty.ucdavis.edu
- Scheiner, E. “Democracy Without Competition in Japan: Opposition Failure in a One-Party Dominant State.” 2006. scheiner.faculty.ucdavis.edu
- Scheiner, E. “Pipelines of Pork: Japanese Politics and a Model of Local Vote-Buying.” 2005. scheiner.faculty.ucdavis.edu
- Yamamura, E., & Sabatini, F. “Superstars in politics: the role of the media in the rise and success of Junichiro Koizumi.” arXiv, 2014. arXiv
- “Explaining One-Party Dominance in Japanese Politics.” East Asia Forum, 2018. East Asia Forum
- “Why has the LDP Stayed in Power so Long in Post-War Japan?” E-Scholarship Repository. エスカラシップ
- “The Liberal Democratic Party in Japan: Explaining the Party’s Ability to Dominate Japanese Politics.” Inquiries Journal, n.d. inquiriesjournal.com

