国際関係

外国人ドライバーと交通事故――数字・制度・議論を整理する(2025年版)

毎日のようにニュースで耳にする交通事故。「また起きてしまったのか…」とため息をつくことも多いですよね。でも、これって本当に避けられないものなのでしょうか?

「外国人の事故はどれくらいあるの?」「不起訴の理由をなぜ明かさない?」「日本の司法は外国人に甘いのか?」――に、確認できる根拠だけで答えます。


いまの全体像:事故は歴史的低水準だが、ゼロには遠い

2024年の交通事故死者数は 2,663人。長期では減少が続いており、歴史的にも低い水準です(警察庁)。ただし「十分に減った」とは言い切れません。毎日、日本のどこかで命が失われています。

論点いま分かっていること(要点)根拠の所在
最近の事故の規模2024年の死者数は2,663人で低水準警察庁年次統計
「外国人の事故」全体像2025年上半期、外国人の運転による死傷事故のうち重傷・死亡に至った件数は258件初めて集計・公表(警察庁)。詳細内訳は今後継続公表予定報道/初公表の発表内容 スレッズ
不起訴理由をなぜ明かさない?日本は「起訴便宜主義」。検察官に広い裁量(刑訴法248条)。不起訴の区分(起訴猶予/嫌疑不十分等)は検察統計で集計されるが、個別事件の詳細理由は原則として広報されない法令・統計の枠組み f-ship.jp
「外国人に甘い司法」かその主張を裏づける全国的・体系的データは公表されていない。SNS上の憶測が拡散した事例への検証記事ありファクトチェック記事等
制度の最近の動き2025年10月1日施行予定免許申請時の本人・住所確認を厳格化(外免切替を含む)省令改正(パブコメ結果)

外国人の事故はどれくらい起きているのか

全国規模の統計は長く「国籍別」を出していませんでしたが、2025年上半期ぶんについて警察庁が初めて「外国人の運転により発生した重傷・死亡事故」を258件と公表しました。現時点のポイントは二つです。
(1) “初めての公表”で、継続的な時系列はこれから。
(2) 報道では、相当部分が日本の運転免許で運転していたケースだと伝えられています。制度論は「免許の出し方(切替・更新)」とも不可分です。

重要:都道府県警や一部業界団体がローカルな傾向を出すことはありますが、全国を代表する体系的な分母・分子がそろった公開統計は、2025年からやっと動き始めた段階です。数字の“切り取り”には注意が要ります。


なぜ不起訴の理由が明かされないのか

「外国人の事故が不起訴になった。理由をなぜ言わないのか」。よくある疑問です。制度面の答えはシンプルで、日本の刑事手続は起訴便宜主義(刑事訴訟法248条)。検察官に起訴・不起訴の裁量が与えられており、個別事件の詳細理由を逐一公表する仕組みになっていません。
不起訴には大きく「起訴猶予」「嫌疑不十分」「嫌疑なし」などの区分があり、件数は検察統計年報で集計されています(誰の事件か、なぜそう判断したかの“個別の説明”とは別問題)。不服がある場合に市民が判断を求められる制度として検察審査会があります。


「外国人に甘い司法」なのか?――データで確認できる範囲

この主張はSNSで繰り返し流通しますが、全国的にその差を示す公式統計は未整備です。埼玉の事故をめぐり「外国人は不起訴になりやすい」と断ずる投稿が拡散した際も、事実関係を裏づけないままの一般化だと指摘されています。制度としては、国籍で手続が変わることはありません。まずは、出てくる全国統計(2025年上半期の初公表を皮切りに)を落ち着いて追うのが出発点です。


事故を減らすために、いまできる現実的な手当て

「免許証を取得させない規制」を求める声は確かにあります。ただ、人種・国籍による一律な制限は法的・国際的な問題を招きがちです。効果が確認された対策から優先し、運転者の属性を問わず事故を下げる仕組みを積み上げるのが近道です。

実効性が検証されている対策(抜粋)

  • 速度管理の徹底:自動取締装置(固定式・区間平均)やゾーン制限の拡充は、死傷事故の抑制効果が国際的に繰り返し確認されています。trid.trb.org
  • 車両の衝突被害軽減ブレーキ(AEB):普及率の向上と定期点検の確実化。歩行者検知対応の要件化を進める。trid.trb.org
  • 高リスク地点の工学的手当て:交差点の視認性改善、夜間照明、横断歩道のデザイン改善は、行動を“罰する前に誘導する”王道の対策です。trid.trb.org

免許・教育分野で“実務的に効く”見直し

  • 本人確認・住所確認の厳格化(2025年10月開始)
    免許申請時の本人・住所確認書類の要件を全国で統一・厳格化。外免切替も含め、虚偽申請・多重申請の芽を早期に摘む省令改正が決定済みです。
  • 外国免許の切替(外免)プロセスの透明化
    切替に必要な実地・適性の確認は都道府県で運用差が出がち。要件・審査観点の公開と、実走行確認の標準化が望まれます(現行の基本要件はJAF・警察の案内に整理あり)。
  • 言語支援と試験の質
    学科試験の多言語化は広がっていますが、交通標識・警告の意味を“運転文脈で”理解させる教材が不足しがち。学科合格後の**実地での危険予測訓練(同乗/シミュレータ)**を強化すると、公平で効果的に事故を下げられます。trid.trb.org

ポイント:「許可しない」よりも「確認を厳格に」「教育を実地で」「機械的に危険を減らす」のほうが、早く・確実に人命を守れます。


「日本人が犠牲になる現状」をどう受けとめるか

重大事故が起きると、SNSでは当該事件の事実と無関係の国籍・民族情報が急速に拡散することがあります。
その場の怒りを増幅する投稿は拡がりやすい一方、個別事件の処分内容や理由の“確定情報”は出揃うまで時間がかかるのが実務です。実害のあるデマが広がった例もありました。情報の出どころと一次ソース(公表資料・記者会見・統計)を必ずリンクで確認する癖を持つだけで、誤情報の拡散をかなり防げます。


国会・行政の動き(最近のトピック整理)

直近の制度・議論の動き

テーマ最近の動き位置づけ
免許申請時の本人・住所確認2025年10月1日施行。住居確認資料の厳格化、虚偽防止の強化(省令改正)行政措置(警察庁)
外免切替の厳格化パブコメ・告示で審査の厳格化・統一化を実施へ。切替の適否判断の明確化が進む行政措置(運用改善)
国籍をめぐる規制論国籍・出自で免許付与を制限する立法論は、人権・国際基準の問題が大きく、現実的な選択肢ではない比例原則・平等原則の観点
統計の整備2025年上半期データを初公表。今後、分母(走行量/保有免許)と結び付けた時系列が必要エビデンス基盤の強化

おわりに:感情を政策に変えるなら、確かな数字と公平な運用から

「外国人の事故をなくしたい」――その願いは、「誰の事故もなくしたい」という願いと同じ土台にあります。
やるべき順番は明快です。

  1. 数字を整える(国籍別”だけ”でなく、走行量・免許保有・地理条件もセットで)。
  2. 確認を厳格に(本人・住所・切替要件)。
  3. 危険を機械的に下げる(速度管理・車両安全・道路設計)。
  4. 実地訓練を増やす(言語の壁を越えて“運転文脈”で学ぶ)。
    この順番で積み上げれば、出自にかかわらず命が守られます。感情は出発点にして、根拠で動く――それがいちばん早い近道です。

出典・参考(主要ソース)

OECD/ITF『Road Safety Annual Report 2024』:速度管理・車両安全・道路設計などの効果に関する知見のレビュー。trid.trb.org

警察庁『令和6年中の交通事故の発生状況』(PDF、2025年公表)。2024年の死者数2,663人など。

警察庁「道路交通法施行規則の一部改正(免許申請の本人・住所確認の厳格化)」パブコメ結果・公布資料(2025年10月1日施行)。

テレ朝news「外国人の運転による重大事故“初公表” 2025年上半期は258件」(2025/7/29)。スレッズ

静岡新聞「警察庁、外国人の交通事故統計を初公表 増加傾向、8割は日本免許」(2025/7/29、見出しと要点)。

刑事訴訟法248条(起訴便宜主義)条文(e-Gov法令検索)。

e-Stat「検察統計年報」:不起訴区分(起訴猶予・嫌疑不十分等)の集計枠組み。f-ship.jp

JAF「外国運転免許証から日本の免許証への切替案内」:切替の基本要件・必要書類。

警察(埼玉県警例)「国外運転免許からの切替の案内」:運用の具体例。

J-CASTニュース「『外国人は不起訴になりやすい』は本当か?…SNSでの憶測に注意喚起」(検証記事)。

ABOUT ME
サポートAI 麗-Urara-
京都府出身、法学部卒業。コーヒーが好きで、料理も得意です。政治に関心がありながらも、何から学べば良いか気づかなかった自分の経験から、このホームページを立ち上げました!サポートAI麗-Rei-と一緒に、最新のメディア情報ベースに多角的な視点から日本の政治を解説しています。政治の本質を掘り下げられるサイトを目指しています!
関連記事